ストレッチは筋肉をほぐすことによって怪我を防ぐ効果があるとされていますが、そのスレッチが場合によっては悪影響を及ぼすということは知っていますか?
こめやん
ストレッチにもいくつか種類がありますが、特定のストレッチは運動パフォーマンスに悪影響が有り、パフォーマンスが低下するという報告があるのです。
逆にパフォーマンスを向上させるストレッチ法もあると報告もされています。
ここでは、どのようなストレッチ法が、どんな種類の運動のパフォーマンスを変化させるのかを紹介していきます。
スタティックストレッチが与える影響
ストレッチにはスタティックストレッチとダイナミックストレッチの2種類があります。
- スタティックストレッチ: 反動をつけないでゆっくりと筋肉を伸ばす方法。
- ダイナミックストレッチ:動きをつけて筋肉を伸縮させる方法
スタティックストレッチ
筋肉を伸ばした状態で30秒ほど静止させます。正しいフォームで行えば軽い負担で筋肉の持久力や柔軟性を向上させるトレーニングになります。
ダイナミックストレッチ
ダイナミックストレッチは関節を動かして伸ばしたい筋肉の伸長と収縮を繰り返すストレッチ方法です。とくに反動をつけて行うストレッチ方法はバリスティックストレッチといいいます。動的ストレッチは静的ストレッチと比べて大きな力が加わりやすく怪我をしやすいです。
筋肉の柔軟性を上げる目的(体を柔らかくする)ではスタティックストレッチと比べてダイナミックストレッチは向いていないとされることもありますが、いくつかの研究ではどちらでも変わらないということが示されています。
瞬発的な運動に与える影響
ストレッチは運動前に行うことで、筋肉の柔軟性を高めて、準備状態にすることでパフォーマンスを高めると思われていました。
しかし、「瞬発的に大きな力を発揮するような運動のパフォーマンスは低下する」ことが報告されています。
例えば、垂直跳びや幅跳びなどのジャンプ運動などがあります。
筋肉をスーッと伸ばすようなスタティックストレッチはパフォーマンスの向上はおろか最大挙上負荷や動的筋力、等尺性筋力、筋力発揮速度の低下が報告されています1,2)。
スタティックストレッチによる筋力の低下は3割にも及び、効果は45分程度持続するようです。
パフォーマンスを低下させないという報告もありますが、注目すべきなのはスタティックストレッチが瞬発的な運動のパフォーマンスを向上させるという報告がないことです。
つまり、現状ではスタティックストレチングは瞬発的な運動のパフォーマンスを低下させる恐れがあるとみて良いでしょう。
山口らのレビュー論文ではスタティックストレッチによるパフォーマンス低下を起こさないためには、「スタティックストレチングを30秒未満に抑えるべき」という考察をしています。
1) Cramer JT, Housh TJ, Johnson GO, Miller JM, CobumJW, Beck TW (2004) Acute effects of static stretchingon peak torque in women. J Strength Cond Res.18 (2) :236-241.
2) Nelson AG, Guillory IK, Comwell C , Kokkonen J (2001)Inhibition of maximal voluntary isokinetic torque production following stretching is velocity-specific. JS 仕ength Cond Res. 15 (2) :241-246.
スタティックストレッチがパフォーマンス低下を引き起こすメカニズム
スタティックストレッチによる筋力低下のメカニズムはいくつか考察されています。
一つは筋紡錘感度の低下があります。
筋紡錘は筋肉の長さを感知している器官です。
筋肉がストレッチにより伸張されると筋紡錘が脊髄・脳に伸ばされたよ!という信号を送ります。
この信号が送られると同時に伸ばされた筋肉を瞬時に動かせるように脊髄中にあるα運動神経の活動が活発になります。これを伸張反射といいます。静的ストレッチによって筋紡錘が刺激されることによって筋紡錘の感度が低下して伸張反射低下による筋力低下が起こります。
2つはγ運動神経感度の低下があります。筋紡錘の内部には錘内線維と呼ばれる筋繊維があり、伸張されるとγ運動神経が活発化され、筋紡錘の感度が向上します。これも運動前の静的ストレッチによって予め刺激されてしまうと脱感作によって運動時の感度が低下してしまいます。
持久的な運動に与える影響
筋肉の柔軟性が高い人ほど有酸素運動のような持久的な運動をする際の消費エネルギーが大きいというような報告があることから、運動前のストレッチングが持久パフォーマンスを低下させる可能性があると見られていますが、現在はエネルギー消費量には影響を与えないとする見方が主流のようです。
動的ストレッチングが与える影響
動的ストレッチング (ダイナミックストレッチ)が運動パフォーマンスに与える影響については報告例が少ないですが、これまで報告では運動パフォーマンスが向上したという報告はすくないです。そのため、パフォーマンス向上を狙った動的ストレッチの効果は薄いようです。
ダイナミックストレッチングが与える影響
ダイナミックストレッチングが運動パフォーマンスを向上させるという報告もわずかありますが、期待は薄いです。
一方で、スタティックストレッチと比べてダイナミックストレッチングをやることでパフォーマンスが低下するという報告はないため、パフォーマンスを気にする運動前ではダイナミックストレッチが推奨されます。
参考
山口太一, and 石井好二郎. “続報 運動前のストレッチングがパフォーマンスに及ぼす影響について.” (2010).