筋肉を大きくさせる筋肥大を促進させるものもあれば、筋肥大を抑える物質もあります。その一つがミオスタチンです。筋肥大を邪魔するミオスタチンの作用を押させることができれば筋肥大をもっと効率的にできるかもしれないのです。
人間は筋肉がつきにくい?
人間は他の動物の中でも貧弱な体をしていますよね。見た目がスラッとしていて、鍛えでもしない限り筋骨隆々とは程遠い体つきです。しかも、運動をしないでダラダラと怠けていれば、筋肉も落ちてブクブクと太りはじめます。
一方でそのへんの動物を見てください例えば鶏、猫の足の筋肉量は鍛えてもいないのに筋肉隆々です。
霊長類でもチンパンジーだって握力200kg超えで人間の世界一192kgをゆうに超えています。ハンドグリップやダンベルなどをやらないチンパンジーにすら人間は勝てません。
なぜ人間は筋肉がつかない理由の一つは
「リミッターがついているから」
ならば、その限界とやらを科学の力で超えてやろう!という話の一端が「ミオスタチン阻害剤」の話です。
筋肉は最大のエネルギー消費組織の一つ
なぜ人間は筋肉ムキムキにならないのか?
それは筋肉がまるで巨大排気量の大型車のように大量のエネルギーを消費する器官だからです。筋肉は鍛えるほど筋肉量が増えて太くなります。筋肉は太くなるほど大きな力を得られますが、それと同時にエネルギーの消費量も多くなります。
筋肉は安静時でも多くのエネルギーを消費する器官で、経口投与したグルコースのうち、約80%は筋肉で消費されると言われています(R.A.DeFronzo, et al, J.Clin. Invest., 76, 149 (1985))。
無駄なエネルギーを消費しないために筋肉の量は常に監視され、必要とされる筋肉だけ残すように調整されています。筋肉肥大のメカニズは複雑で分からないことも多いですが、筋肉に対する運動負荷が筋肉肥大を促すことが分かっています。
この内ミオスタチンは、サイトカインが関与する経路での骨格筋肥大を抑制する物質です。
筋肥大に関わる物質としては、テストステロンなどのホルモンの他、FGF(線維芽細胞増殖因子)、TNFα、TGFβ、ミオスタチン、IL-15、PF-4などの成長因子やサイトカインがあります。
ミオスタチンの機能
ミオスタチン (GDF-8)は筋肥大を強力に抑制しています。
ミオスタチンが働くと、筋肉細胞はアポトーシスや筋肉タンパク質の抑制をすることなく筋芽細胞の増殖や分化を阻害します。
ミオスタチンが欠損したマウスは正常なマウスと比べて筋肉重量が2~3倍にもなります。
ベルジアンブルーっていう牛がいるんだけど、これってミオスタチンっていう筋肥大を抑制する遺伝子が変異してるからこんな身体になるんだよね
いい身体してる
君はボディビル出たら優勝 pic.twitter.com/hWrZTWLhnG— レイ@筋トレ (@rei_body) 2019年4月5日
実際にミオスタチンの遺伝子が変異して抑制された動物は全身の筋肉が肥大してムキムキになっています。
ミオスタチンを抑制させる方法としては、抗ミオスタチン抗体やミオスタチンと結合して機能をなくすペプチドなどがありますが、残念ながら実際に利用されているものはありません。米国のWeyth社の抗ミオスタチン抗体 MYO-029は人を使った臨床研究が進んでいましたが、筋力と運動機能の改善が優位に見られなかったので、開発が中止されてしまいました。
ミオスタチンの阻害効果を謳ったMYO-Xと呼ばれるサプリメントが販売されていますが、これにはミオスタチンを抑制するフォリスタチンというペプチドが入っていると紹介されています。フォリスタチン自体が入ったペプチドを口から摂取しても、胃腸などで分解を受ける可能性があり、そのままの形で吸収は難しいと思われますが、実際に抑制効果はあるのでしょうか?
筋ジストロフィーの治療として
真面目な話ですが、筋肉ムキムキになるということは健康な人の目線ですが、世の中には全身の筋肉がやせ細る病気にかかっているひとがいます。その人たちに筋肉ムキムキの方法を使えば、筋肉が正常な状態に戻るというように、治療にも使えるわけです。
筋ジストロフィー症、HIVに伴う筋肉の消耗、サルコペニア、長期のベッド安静に伴う筋肉消耗などの症状を改善することができると考えられています。