脂肪燃焼はダイエットで重要な課題です。
体は脂質を代謝してエネルギーを取り出すことができます。脂質代謝の一つにはβ酸化という経路があります。
今回は脂質代謝のメインであるβ酸化について紹介します。
目次
脂質代謝とは?
脂質代謝とは、脂質の分解&エネルギー産生のことです。脂質は酵素などによって分解されて小さい分子になっていく過程でエネルギーが作り出されます。
脂質のエネルギーは食物のエネルギー源の中で最も高く1gあたり約9kcalと言われています(糖類・タンパク質 4kcal /1g)
このように高エネルギーの脂質は体の中でどのようにエネルギーに変換されるのでしょうか?
まず体の中にある脂質の大部分は中性脂肪(グリセロールと脂肪酸のエステル)で存在しています。エネルギーを作り出すためには、脂肪酸(カルボン酸)の形にしてやらなければいけません。脂肪酸への加水分解はリパーゼという酵素によって行われます。
この脂肪酸からエネルギー作り出すメインが「β酸化」です。
β酸化では、炭素二個分の単位で順次分解されて生成した「アセチルCoA」がTCAサイクルという代謝経路に入ってエネルギーが生成されます。
エネルギーのカタチ
代謝によって作られるエネルギーには「熱」と「ATP」があります。「熱」は単純にものを燃やす時に出てくる熱と同じです。そして「ATP」はエネルギーが保存された状態のものです。熱のエネルギーは体温などに利用され熱として失われていきますが、ATPはエネルギーが保存されてるので他のエネルギー源に利用できます。実際にATPは体の様々なタンパク質を動かすのに使われています。
β酸化の経路
- β酸化は遊離した脂肪酸が補酵素Aによるチオエステル化することから始まります。β位はカルボニル炭素(C=O)から2個離れた炭素の位置です。
- その後、チオエステルはFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)によって酸化されてαβ不飽和チオエステルに変換されます。
- 水和してβ位を水酸化します。
- NAD+によって酸化されてアルコールがカルボニルに変換されます。
- チオラーゼによるβ位のチオエステル化によってジケトン部位が切断されます。これにより生成したアセチルCoAはTCA回路でエネルギー産生に利用されます。
一方で残ったチオエステル(緑のSCoA)は2炭素分減ったチオエステルとして再度FADによる酸化を受けてαβ不飽和チオエステル化されるとういサイクルを繰り返します。
脂質が高エネルギーな理由
β酸化のすごい所は、β酸化の一段回目・チオエステル化にATPを一分子使うだけで脂肪酸からアセチルCoAをたくさんつくり続けることができる点です。
例えば、パルミチン酸からは8分子のアセチルCoAができます。アセチルCoAはTCAに入ると1分子あたり12個のATPを作るため、96個のATPを作り出します。
またアセチルCoAだけでなくβ酸化の経路から生じるFADH2(2ATP/1分子)とNADH2+(3ATP/1分子)からもATPが35分子生じるので総数131分子のATPが生成します。つまり1分子のATP消費で131分子のATPができます。
このようにβ酸化は効率の高いエネルギー産生システムです。
エネルギー効率の計算
空気中でパルミチン酸1moを完全燃焼させると2340kcalの熱を発生します。つまりパルミチン酸1molにはこれだけのエネルギーがつまっていることを意味しています。
一方で体の中ではパルミチン酸1molから35 + 96 = 131molのATPができます。パルミチン酸を代謝するのにATPを1分子つかってAMPにするため実質2分子のATPを利用すると考えると129molのATPができます(ATP→ADP→AMP)。
ATP 1molあたり7.3 kcalのため 7.3 × 129 = 941.7 kcalとなります。
つまり2340kcalのうち941.7 kcal 941.7 / 2340 = 40%がATPとして保存されることになります。ガソリンエンジンは効率が20-30%と言われているので効率が良いです。
チオエステル化する理由とは?
β酸化では第1段階でチオエステル化します。このチオエステルは何のためにやられるのでしょうか?
それは反応性をあげるためです。下の図のようにカルボン酸では共鳴しやすいのですが、チオエステル化するとSの二重結合は取りにくいので共鳴しにくくなります。これはアルデヒドやケトンなどのカルボニル化合物と同じような性質です。
共鳴しにくくなると、α位の水素の酸性度が上がるので、アシルCoAシンテターゼ(酵素)中のグルタミン酸によってα位の水素が引き抜かれ、FADによってβ位の水素が引き抜かれるとαβ不飽和チオエステルが生成します。中性脂肪のトリグリセリドはエステルであるため、この反応は起こりにくいです。化学的にみると中性脂肪→脂肪酸→チオエステル化はエステル→カルボン酸→チオエステルというような変換経路になっています。